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白紙の図書館とは?

ようこそおいで下さいました。
ここ、「白紙の図書館」はHAtAが書いた、
小説、ラノベを載せています。
漫画、イラストは残念ながら封印中です。
不定期になったり、集中連載になったり
波はありますが、ご容赦ください。

前身のブログ「はたはた鍋日記」はこちらから。
http://hatanabe.blog.so-net.ne.jp/
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2016年9月14日やぶきたと鶴松#016 [小説:やぶきたと鶴松]

 腕を組んで仁王立ちする辰衛門じいちゃん。
眼光鋭く、覇気にあふれている。

「立てィ、タツヤ!! 今から蕎麦のイロハを
脳髄からつま先まで叩き込んだるわいッ!!
 ワシが納得するまで今日は寝かさんからな!!
覚悟しておれぃ!!」

「なぁ恵子……お前が言ってたのって、
……こういうことか……?」

「そうよ? ビックリした?
尊敬したでしょ?普段なら、何百万て
取る奥義なんだから。
感謝しなさいよ~?」

 未だに信じるのが困難な状況に、
ミキは得意げになっている。

「取りあえず……俺、顔洗ってくるわ」

「あ、私も……」

「あ!? 何よもう!!
いい加減に信じなさいよッ!!
ちょっ……こらぁッ!!」

 タツヤと千春ちゃんはちょっと眠い目を
しぱしぱさせながら洗面所へと入って行った。


「……さて……タツヤよ」

「ん?」

「蕎麦における一番重要な
要素は何だと思う?」

 辰衛門はタツヤに問いかける。
 タツヤは長考の後、

「そうだなぁ……やっぱり
香りとノド越しかな……いや、
コシも捨てがたい……でもなぁ……」

「愚か者めがァッ!!」

「ぐはぁッ!?」

 一つに絞りきれないタツヤに対し、
辰衛門は怒りのフライングクロスチョップを
喉元に的確にかました。

「ぐちぐち、ぐちぐちと……。
こんな簡単なこともわからんのか?
それでもワシの孫かっ!!
お前が今、上げた要素は
確かに重要ではある……。
蕎麦はまさに総合芸術じゃ。
何一つ欠けても、
真の蕎麦にはならんのじゃ」

周りが何やら慌てているが、辰衛門は続ける。


「しかし!! 蕎麦打ちに
真に必要な要素……。
それは……ん~……魂……そう、
ハート、ソウルじゃ!!
これが極限まで高まれば、
自然と蕎麦の呼吸を感じ、
理屈うんぬんでは語れぬ
究極の美味なる蕎麦ができるのじゃ。
どうじゃ? わかったか?」

「あの、タツヤさん……気絶してるんですけど」

「ぬっ!?」


 先ほどのフライングクロスチョップが相当、
綺麗に入ったためタツヤは泡を吹いて倒れている。

 それを必死に介抱する千春ちゃんとミキ。


 10分後。


「げほっ、げほっ」

「だ……大丈夫ですか?
お水要ります?」

「ありがと……危うく俺も、
召されるトコだったよ……」

何とか意識を取り戻したタツヤ。


続く


続きは今日の一曲。


2016年9月8日やぶきたと鶴松#015 [小説:やぶきたと鶴松]

 その言葉と同時に、確かに店舗全体が揺れた。

 するとあの青白い光はタツヤの祖父、
波橋辰衛門、その人になっていた。

 肌は光と同じ青色で、服装は死に装束。
肉体は78歳で亡くなったとは思えないほど屈強で、
ひげを蓄え、髪は後ろで束ねた若干強面の老人。


「ここは……?」


 辰衛門はあたりを見回す。
懐かしい自分の店を見て、
ここが現世であることを確認していた。
そして目の前には、孫の姿があった。

 その孫は流石に度胆(どぎも)を抜かれていた。


「じ……じいちゃん? 
本当にじいちゃんなのか……?」

「……す、すごい……」

「おお、お前は……達也か?」

 半ば放心気味のタツヤと千春ちゃんに
辰衛門は近づいていき、そして、


「ふんっ!!」

 タツヤの後頭部に思いきり
ゲンコツを振り下ろした。

「いっ……痛ってェ!! 何すん……」


「何、じゃないわい!!
ワシはあの世で見ておったんじゃ!!
不甲斐ない蕎麦を作りおって!!
悲しかったぞ!!常連さんも
ごひいきさんも手放しおって!!
かー!! ワシの孫とは思えん、
ていたらく振りじゃ!!」


「そりゃ……教わることも
できなかったし……」

「口答えするな!!」

「痛ェ!?」

 再びゲンコツがタツヤに降りかかる。

「すごい…どうやってこんな霊能力を…」

 千春ちゃんはまだ驚きから抜け出せないでいた。


「昔、好きだったサッカー部の
キャプテンが交通事故で亡くなってね。

告白できなかったんで、
何とか想いを伝えたかったのよ。

そこで告白するために、
恐山で7年間修業して、降霊術を
身に着けて今に至るってわけ。

まあ、その人にはフラれちゃったんだけど」

 千春ちゃんの疑問に答えるミキ。

「何だか……漫画みたい……」


続く


続きは今日の一曲。


2016年9月6日やぶきたと鶴松#014 [小説:やぶきたと鶴松]

「お前……夜が似合うな。何と言うか」

「どういう意味よ、それ」

「お水のニオイしかしないってことだよ」

「……ホント、アンタって昔から
一言多いわよね。
全く変わってないわねぇ」

「お前はまるで別人だな。
あの頃は可愛かったもんだが……」

「……え?」

「え……えーと!! ミキさん?
今日はどういうご用件なんでしょうか?」


 二人の自然なトークに不安を覚えた
千春ちゃんが、思わず割って入る。

「昨日の鴨せいろはひどかったわね。
昔、食べたのとは大違い。おじいちゃんの
足元にも及んでいなかったわ」

「繰り返し言わなくても
重々承知してるよ、そこんところは。
で? 今日はどうすんだ?
あの味を再現できる人は、
もうこの世にはいねぇよ」

「そう。残念だけど、
この世にはいないわね。
だから呼んでくるの」

タツヤと千春ちゃんは
イマイチ話が見えない。

「……? じいちゃんは
弟子も取らなかったし、
レシピなんかも残してねぇぞ?」

 タツヤの祖父は頑固一徹で、
そのノウハウは愛娘のタツヤの
母にしか伝授しなかった。

 二人が他界した以上、この世にあの味を
出せる人間は存在しない。


 しかし、ミキは自信満々である。


「あなた、私の職業忘れたの?」

「ケバいくらいのセクシー芸能人」

「ケバ……!? ま、まあそこは置いといて、
芸能人じゃないわよ、霊媒師よ霊媒師!!」

タツヤと千春ちゃんはあっけに取られた。
そして、
「……熱は無いわよ、健康健康」

思わずミキの額に手を当てる二人。

「……アレって設定じゃなかったのか?
本気かよ?」

「私もオプションだと思ってました……」

「……いい度胸ね、あんた達」
 若干イラつくミキだが、話を続ける。


「だから。この世にいないんなら、
あの世から呼ぶの。今から」

「……はぁ!?」
 思わずハモるほどのタツヤと千春ちゃん。

「……駄目だ、思った以上に重症だ。
千春ちゃん、救急車」

「はい」

「待ちなさァい!! いい加減にしなさいよ!?
私の降霊術、テレビでもやってるでしょ!!」


 ついにキレるミキ。
だが二人の態度も常識で考えれば
仕方のないことと言える。


「だってアレ、ヤラセだろ?」

「違うわよ!! あーもう、
見た方が早いわッ!!
今からおじいちゃん呼ぶから!!
黙って見てなさい!!」


 そういうと、ミキは毛皮のコートから
高そうな数珠を取り出し、手を合わせる。
そして、どこの宗派とも知れない
お経を呟き出した。


 すると突然、あたりがうす暗くなる。
蛍光灯が点いているにもかかわらず…………。


「!?」

「店長……これって!?」
 タツヤと千春ちゃんは空気が

冷たくなったのを確かに感じた。


「まさか……」

 満足げな表情を浮かべるミキ。

「……手品?」

 その言葉に、人を殺せそうなほどの
殺気がこもった目線で応えるミキ。

「……すまん、でも本当に……?」

 そしてミキの降霊術は仕上げに入る。
 青白い光が辺りを包んだかと思うと、
三人の目の前に集まり
徐々に人の姿になっていく。


「我、恐山ミキの名において命ずる!!
出でよ、波橋辰衛門!!」


続く


続きは今日の一曲。


2016年9月4日やぶきたと鶴松#013 [小説:やぶきたと鶴松]

「……わかったわ、今日は仕事が忙しいけど、
明日の夜にまた来るから。あの頃の味、
取り戻すの、手伝ってあげるわ」

「でもお前、蕎麦打ちなんて出来るのか……?」

「詳しくは明日の夜に説明するから。
とりあえず店は開けておいてね」

「…………?」

 タツヤと千春ちゃんは意味が
理解できないでいた。

 TV収録は企画を変更して事なきを得、
そして夜を迎えた。

「おっせーな……もう10時だぞ?」

 繁華街は仕事を終えた
大人たちでにぎわっている。

 しかし、やぶきた蕎麦は当然のれんを降ろし、
タツヤは千春ちゃんと共にミキを待つ。


 …そもそも今夜、
何が行われるかが分からない。

ミキは本当に来るのだろうか。

二人は若干不安になり、
「千春ちゃん……ごめんな、
学校もあるだろうに」

「いえいえ!! いいんです!!」

 こんな時間に親御さんは心配しないのか。
タツヤはそっちの方も心配でならない。

 当の千春ちゃんは夜の魔力もあってか、
少し息は荒く、興奮気味である。


「あの人が来ないなら来ないで、私は……」

「……え?」

「待たせたわね、二人とも」

 店の引き戸が音を立てて開き、
ミキが入ってきた。

同時に千春ちゃんのチッという舌打ちが
聞こえたが、二人は気付いていない。


続く


続きは今日の一曲。


2016年9月3日やぶきたと鶴松#012 [小説:やぶきたと鶴松]

「……お待ちどう……様です……」

 とりあえず一番自信のある鴨せいろを出す。

タツヤは顔から血の気が
引いているのが自分でもわかっていた。

千春ちゃんはうっすら涙目である。

「いただきます」

 まずつゆを味わい、そして麺をすする。

 ……三人は一口食べただけで、同時に箸を置いた。

 そして少し間を置いて出た言葉は、

「これは食するに値しませんね」

「確かに」

「ミキさんのご紹介ですから、
期待していたのですが……」

 やはりそうか……と、うなだれる二人。

 それ以上に驚いていたのは、
誰あろうミキであった。

「な……なによ、この鴨せいろ!!
昔食べた味と全然違うじゃない!!
どういう事!?」

 TVスタッフがものすごく焦り出す。
とりあえず休憩をはさむこととなった。


「……終わっ……た……」

「ちょっと、どうなってんの!?
あなたお店継いだんでしょ!?
それにおじいちゃんは!?
あなたのお母さんはどこなのよ!?」

 ミキも焦りを隠せない。

「じいちゃんは7年前に病気で……
母さんは3年前に交通事故で死んだよ。
霊媒師なんだろ?そんなことも
分かんなかったのか?」

「でも、あんたの腕がひどいのは予想外よ!!
二人からは何も学ばなかったの!?」

 意気消沈するタツヤを責めるミキ。

「俺は画家になるため美大に
通ってたからな。本当は蕎麦屋は、
母さんの代で終わるはずだったんだ」

「じゃあ何で店を継いだのよ……」

「そればっかりはわかんねぇ……。
……ゴメンな千春ちゃん、
この店は今日で終いだ」

「店長……そんなこと……。
ちょっと恐山ミキ!!
何てことしてくれたのよ!!」

 ミキに詰め寄る千春ちゃん。
これには返す言葉が無い。

 しかし、ここでミキは一計を案じる。


続く


続きは今日の一曲。


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