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白紙の図書館とは?

ようこそおいで下さいました。
ここ、「白紙の図書館」はHAtAが書いた、
小説、ラノベを載せています。
漫画、イラストは残念ながら封印中です。
不定期になったり、集中連載になったり
波はありますが、ご容赦ください。

前身のブログ「はたはた鍋日記」はこちらから。
http://hatanabe.blog.so-net.ne.jp/
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2016年8月26日やぶきたと鶴松#006 [小説:やぶきたと鶴松]

 その時、店の電話が鳴る。
(一方的に)緊迫感があった空気が若干和む。

電話に出る千春ちゃん。

「毎度どうも、やぶきた蕎麦でございます」
 パニックから完全に営業モードに切り替わる。
このスイッチの切り替えの早さも頼もしい。


「あぁ、私ナホベリプロの鬼島(きじま)と申します。
店主さんはいらっしゃいますでしょうか?」
「ナホベリプロ?」

 ナホベリプロといえば大手の芸能事務所。
蕎麦屋には到底、縁のない関係に思える。

 しかし千春ちゃんは瞬時に事態を悟った。

「まさか!! 私をスカウトですか?
いや~、まいったなぁ~!! そりゃあ
私、可愛いってよく言われますけど、
芸能人ですか? はたまたモデルですか?
どうしよう、困っちゃったな~」

「んなワケあるかい。取材の申し込みですよ」
 勘違い上等の千春ちゃんを
クールにいなす鬼島と名乗る男。


「あー……店長!! お電話です」

「ん?どこから?」

「芸能事務所みたいですよ?」

「……? 芸能? まぁいいか。
あい、代わりました。店主の波橋達也です。」

「あー……あんたが店継いだの。
お母さんは? 元気にしてる?」

「ん?」


 電話口の声の主は明らかに
女性のものに変わっていた。

 しかも、どこかで聞き覚えのある声。
昔から聞き覚えもあり、
最近もよく聞く声だった。


続く


続きは今日の一曲。


2016年8月25日やぶきたと鶴松#005 [小説:やぶきたと鶴松]

「ああ、同級生。小学生の時の。
近所に住んでてね。
いわゆる幼馴染ってヤツだな」

 千春ちゃんの顔が若干、こわばる。


「な……仲は良かったんですか?
変な事とかしてないですよね?
まさか……」

「いやいや。アイツとは
何から何までかみ合わなくてさ。
ケンカばっかりしてたよ。
昔は地味で引っ込み思案の暗い性格だから、
いっつも泣いて。
そのたんびにお袋に怒られてたよ。」


「そ、そーですかぁ!!
良かったぁ!! そーですよね!!
嫌いだったんですか!!
良かった、良かった!! ふぅ~……」

「え? 好きだったよ?」

「え」

 千春ちゃんのこわばっていた表情が、
一瞬緩み、再びこわばる。


「ホントはいつも俺の方が悪かったし。
アイツ、中学の頃に転校してなー。
告白はしてないんだよ」

「…え?」
 千春ちゃんの表情がさらにこわばる。

「アイツ、イタコになってたのか……。
まだ信じらんねぇや」


 千春ちゃん、意を決して。
「て……店長はもしかしてまだ、
す、好きだったりとかは……」

「どうだろうなぁ。実際忘れてたし……。
今さっきまで。
向こうも覚えてないんじゃないかな?
覚えてても向こうは俺の事、
嫌いだろうし。多分」

「は……はは……そうですか……」

「ん? どした、千春ちゃん? 怖い顔して」

「いや、何でも……」

続く


続きは今日の一曲。


2016年8月24日やぶきたと鶴松#004 [小説:やぶきたと鶴松]

 しかしタツヤは何かが引っかかっている。

 何だろう、と頬杖をついて
椅子にもたれながら違和感の源を
脳内をフル回転させて、検索していた。

「そーだよ、どっかで見た顔なんだよな……」
「毎日見てるじゃないですか、TVで」
 
 千春ちゃんの意見はごもっともだが、
どうやら違うらしい。

「いや……ずーっと昔なんだよ、
確か。誰だっけな。
えーと、誰だっけな……
ここまで出てんだけどな……」

「?」


「そっか!! 山田だ、山田恵子!!
アイツだ!!目元そのまんまだ、
うっわ懐かし。
え!? 何、アイツ、今こんな
ケバくなってんの!?
………はー……人間、
変われば変わるもんだな……」

 名探偵が事件を解決したかの如く、
タツヤは独特の爽快感を味わっていた。

「……えーと、店長?」

「ん?」

「……えーとですね、
お知り合い……なんですか?
あのケバケバねーちゃんと」

 置いてけぼりをくらった
千春ちゃんはタツヤに問うてみる。


続く


続きは今日の一曲。


2016年8月23日やぶきたと鶴松#003 [小説:やぶきたと鶴松]

遅めのまかない……念のため、
昼食時を避けて取った
遅めのまかないのかけ蕎麦をすすりながら
タツヤは千春ちゃんに聞いてみる。


「バイトだったら、もっと好条件な店は
いっぱいあるだろ? 何でウチにいるんだ?」
 タツヤは前々から不思議に思っていた。

 千春ちゃんは小柄で愛嬌もあり、
看板娘には持って来いなので、
ありがたいことではあるが。


「え、えーとですね……こ、ここの
おそば大好きなんです、実は」
「ゴメン、俺本人でも、
嘘ってわかるわ。悲しいけど」
 ポジティブな彼女でもまだ、タツヤに恋心を
抱いていることは言えないでいた。


 昼休みは終わったが、ヒマには変わりない。
 タツヤはおもむろにTVをつけ、
千春ちゃんと共にワイドショーを見ていた。

 
 今日のテーマは今話題の、
セクシー霊媒師恐山(きょうやま)ミキ特集。

 長いストレートの黒髪に、
ばっちりナチュラルメイク、
ミンクの毛皮のコートの下は
純白のスリットの入ったドレス。
 派手という言葉はこの女のためにある。
タツヤの第一印象はまさにそうだった。


「あ、恐山ミキ、また出てるんですね」
「最近、TV出過ぎだよな」

 トークも達者で時事ネタにも強く、
教養もある。霊媒師の能力は正直、
まゆつば物だが世間はかなりの割合で
信じているようだ。

 
 TVで観ない日は無いと
言ってもいいほどでマスコミ好きで
出演料も霊能の依頼料も
相当、高額らしい。

「あー……きっと、すんごく
儲けてんでしょうねぇ……」

「分けてくんねぇかな」

「無理でしょ」

「無理か」


続く


続きは今日の一曲。


2016年8月22日やぶきたと鶴松#002 [小説:やぶきたと鶴松]

ここは最寄駅から徒歩4分、
なかなかの好立地にある蕎麦屋
『やぶきた蕎麦』

 その蕎麦の味は天下一品で、
香り豊かでのど越し抜群、コシのある麺に、
爽やかなつゆが絡み、風味が広がる。
 過去には皇族も口にしたことがある
由緒正しき名店……。


 ……というのも昔の話。今は客足が途絶え、
昼間のワイドショーをずっと見ていても
営業に差し支えないくらいである。

 店主波橋達也はこの店の三代目になる。
先代、先々代は本当に立派な職人で、
この時間だと間違いなく、行列ができていた。


 それもそのはず。タツヤも本当は
店を継ぐ予定ではなかった。

実際、つい最近まで大学生だった
彼は、現在21歳。通っていた大学を
泣く泣く中退して店を継いだ。
 しかも美大である。

 
 店を継いだ理由は単純明快。
先代の母、波橋和美が交通事故で
この世を去ってしまったからである。

 それまでタツヤは蕎麦打ちはおろか、
料理全般、ろくに修業をしてこなかった。


 常連、ごひいき筋は味の劣化に
敏感に反応し、ぱたりと姿を消した。

 今はたまに間違えて入って来る客からの
収入で食いつなぐ、綱渡りな経営状態。
 いつ店をたたんでもおかしくない、
ギリギリのデッドライン上に
ポジションを取っていた。


 千春ちゃん一人を雇うのもやっとである。
「……なぁ、千春ちゃん」
「何ですか?」

続く


続きは今日の一曲。


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